スタッフルーム実況中継
とある新築分譲マンションのモデルルームでの話である…。
モデルルームの奥に位置するスタッフルーム。ウソと説教と本音が飛び交う空間…もちろん一般人は立ち入り「絶対」禁止。
「少々お待ち下さい。」
接客中、爽やかな笑顔の営業マンがお客様にそう一言告げ、ニコニコしながらスタッフルームへ入っていく…。
これは、あくまでも架空の業者の話であり、優良な業者も数多く存在する。「こんな業者がいたらイヤだな…」という妄想として見ていただきたい。
スタッフルーム |
上司 | : | 「おう、えらい若いやつやな。どないや?」 |
営業マン | : | 「ええ、今すぐ欲しいってわけじゃなく、参考でと言ってます。」 |
上司 | : | 「何の参考や?」 |
営業マン | : | 「はい。将来の為の勉強でと言ってます。」 |
上司 | : | 「何を勉強すんねん?」 |
営業マン | : | 「いえ、そこまでは…。」 |
上司 | : | 「アホかお前は!ここは学校か?勉強すんなら家でして来いや!ここはマンションを買うために見るところじゃ!ビシっと言ったらんかい!」 |
営業マン | : | 「すいません。」 |
上司 | : | 「ほんまに…。最近、参考でとかぬかすアホ多いな。うっとうしい。客ちゃうやないか、そんなやつ。」 |
営業マン | : | 「そうですね。」 |
上司 | : | 「まあ、ええわ。勉強で、って言ってるんやったら、「ここ」を「今」買うのがベストやってことを徹底的に教えたれや。「買うまで」な。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「今いくつやそいつ?」 |
営業マン | : | 「25歳です。」 |
上司 | : | 「ほんまに若いのぉ。普通はそんなやつ買わんけどな。何見て来たんや?」 |
営業マン | : | 「折込広告です。」 |
上司 | : | 「チラシ見て何か興味持ったんか?」 |
営業マン | : | 「間取りがいいと…。」 |
上司 | : | 「どの間取りや?」 |
営業マン | : | 「いえ、そこまでは…。」 |
上司 | : | 「アホかお前!チラシに間取り何パターンかのせてるやろが!何に気に入ったんか分からんやろが!話のしようがないやろが!」 |
営業マン | : | 「すいません。」 |
営業マン | : | 「何か希望の動機ないんかい、そいつ?」 |
営業マン | : | 「ええ、結婚を機に、と…。」 |
上司 | : | 「もう結婚したんか?」 |
営業マン | : | 「はい、結婚を機に、と言ってたので…。」 |
上司 | : | 「だから結婚してんのか?」 |
営業マン | : | 「いえ、多分…。」 |
上司 | : | 「アホか!何考えてんのやお前!結婚するのか、したのか、ハッキリさせんかい!何勝手に解釈しとんのや!」 |
営業マン | : | 「すいません。」 |
上司 | : | 「結婚前やったら、やっぱり辞めたとかって手のひら返してくるやろが!突っ込まんかい!」 |
営業マン | : | 「すいません。」 |
上司 | : | 「そいつ、1人で来てるんやろ?たまに、「ただの彼女」を「結婚相手」やて妄想しとるドアホがおるからな、そいつ1人やったら信用できんからな。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「たとえ1人でもここ買わすつもりで接客しろよ。で、何か聞かれたことはないんか?」 |
営業マン | : | 「はい、25歳でマンション買う人っているんですか?と…。」 |
上司 | : | 「んで、何て答えたんや?」 |
営業マン | : | 「はい、一般的にお住まいをご購入される方は、30代の方が多いです。20代の方は少ないです。最近は老後を見越して、一戸建てからマンションに住み替えされるご年配の方が増えてきておりますと…。」 |
上司 | : | 「アホかお前!何を正直に答えとるんや!つまり、そいつみたいな年齢のやつは買わんって言ってるようなもんやろが!ほんならそいつ買わんやろが!それぐらい分かるやろが!このクズ野郎が!」 |
営業マン | : | 「すいません。」 |
上司 | : | 「ここをどんなやつが買ってようが、客にはニーズがぴったり合うように話をしていかんとアカンのや。「20代で買われる方が多いです。なぜかと言うと、皆さん通常は定年を60歳で迎えます。そして、ローンを組む方は35年ローンを組まれます。35年ローンを組んで、ちょうど定年を迎える時にローンを完済しようと思えば…。」いつ買ったらええんや?」 |
営業マン | : | 「25歳です。」 |
上司 | : | 「そやろが!そいつに、今がぴったりの時期やってこと、教えたらなアカンやろが!んで、「だから皆さん、お客様と同じような時期に買われるんですよ。」って胸張って言い切らんかい!ほんまは買わんけどな。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「ほんまは大体、30代で子供産んで、部屋が手狭になって家買おかって思うんや。それを正直に言ってどないするんや!アホが!」 |
営業マン | : | 「すいません。」 |
上司 | : | 「とにかく、それをもう一度説明しろ!それを言わんと厳しいわ、そいつ。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「んで、人生三大出費の話をこんこんと説いていけ!老後の話は若いやつにはあまり実感わかんから、住宅、教育や!」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「そいつ、どうせ、教育資金の事なんか知らんやろ?大体、いくらかかるか説明してやれ!」 |
営業マン | : | 「すいません…いくらかかるんですか?」 |
上司 | : | 「何でお前が知らんねん!アホか!それでも営業か!このクソ野郎が!」 |
営業マン | : | 「すいません。」 |
上司 | : | 「大体、幼稚園で50万、小学校で200万、中学で150万、高校も150万、大学で300万や。んで高校やら大学やらを私学に通わしたら、トータルで1000万軽く超えるわ!それぐらい把握しとけ!」 |
営業マン | : | 「はい。ありがとうございます。」 |
上司 | : | 「んで、子供が産まれたら、何かと金がかかるやろ?なおかつ、教育資金がめちゃかかってくるから、貯金なんぞできんやろが。支払い苦しい時に、家なんぞ、よう買わんやろが。だから、今の低金利で、出費の少ない間に、家買っといて、貯金して、教育資金にも備えるんや!三大出費が重なってる時に、家なんぞ買えないんじゃ!今のうちに買うんがベストな選択やって事をたたき込め!」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「んで、そいつ何に住んでんねん?」 |
営業マン | : | 「ええ、今は実家に親と一緒に住んでると…。」 |
上司 | : | 「そうか、ほんなら家の出費がないから、危機感がないな。でもどうせ、結婚が理由なんやったら、家から出るやろ?嫁、姑の関係はややこいからな。もしそれ聞いて、「いや、それは大丈夫ですから…」とかぬかしおったら、「渡る世間は鬼ばかり」でも見せとけ!」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「んで、出る時にもし家買ってへんかったら賃貸に住むやろ?賃貸がどれだけもったいないか、今の低金利でどれだけ買い時かってことを、近隣の賃貸相場見せながら説明しろ!賃貸相場は、もちろん高めのやつにしとけよ!じゃないと危機感持たんからな。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「金利が1%上がったら、月の支払いが大体1万円上がるんや。もったいないっちゅう事を教えろ!金利は上がるんやってことをすり込むんやぞ!」 |
営業マン | : | 「分かりました。」 |
上司 | : | 「他に、今が買い時やってアピールするネタは分かってるんか?」 |
営業マン | : | 「えっ?他には…。」 |
上司 | : | 「アホかお前!すぐに出てこんでどないするんや!」 |
営業マン | : | 「すいません。」 |
上司 | : | 「住宅ローン減税が今年でなくなるやろが!あれは所得税を差し引いてくれる、お得な制度なんやぞ!「不景気にローンを組み易くするため、特別に設けた制度です。所得税払ってるでしょう?それが、年末調整で一度に還ってくるんですよ。もう今年でなくなるもので、「今」なら最大で160万円還ってくるんですよ!」ってアピールせんかい!まあ、あんま払ってなかったらメリットないけど、「160万円」をアピールすれば、ちょっとのってくるかもしれんからな!」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「んで、消費税が上がるかもしれんやろ?土地には消費税かからんけど、マンションは価格に対する建物の割合が高いやろ?そやから、消費税がアップしたら、その分負担も大きくなるんや!それもアピールしていけ!」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「んで、ちなみにそいつ年収なんぼか聞いてるんか?」 |
営業マン | : | 「はい、300万円です。」 |
上司 | : | 「少ないのぉ。まあ若いから仕方ないか。でも、300万あれば、2000万ぐらいのローンは組めるんや。ウチのクソ安い部屋やったら手届くからな。そういうやつはな、年収低いからどうせ買えんとか勝手に思ってるかもしれんからな。それもしっかり説明しろよ!「全然大丈夫です。ご年収がそれだけあれば、銀行さんは貸してくれますよ。」って安心させとけ!」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「まあ、実際、それだけ組んだら支払いきついけどな。契約させたらこっちのもんや。そいつが破産しようが、知ったこっちゃないからな。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「そいつ、実家に住んでるんやろ?親に家見に行くって言ってんのか?」 |
営業マン | : | 「はい、それは言ってるらしいです。」 |
上司 | : | 「親援助はあるんか?」 |
営業マン | : | 「いえ、それは…。」 |
上司 | : | 「アホかお前!聞くんが基本やろが!実家は持家か?」 |
営業マン | : | 「いえ、それも…。」 |
上司 | : | 「このクズ野郎が!親が持家やったら、親援助の可能性が高いやろが!大体、年収低いから、親も面倒見ようかって思うかもしれんやろが!お前が何にも聞けてへんから、予算も断定できんやないか!」 |
営業マン | : | 「すいません。」 |
上司 | : | 「まあ、実家に住んでるんやったら、親の意向も強いやろ。親か、そいつの嫁か彼女か、とにかく他の人間も連れてくるように言っておけよ。そのためにも、まずそいつを気に入らせんとアカンからな。今言った買い時トークを徹底的にたたき込んで、焦らして、んで物件のメリットをひたすらアピールしていけ!んで、希望の条件やら何やら、聞けるモンは全部聞いていけ!」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「お前、ほんまにしっかり聞いていけよ。そんな下らん接客ばっかりしとったら、耳から血出るまで電話営業さすからな!」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「んで、説明してんのに、「はいはい…」とか聞き流しおったら、「勉強しに来たんでしょ?」ってすかさず突っ込めよ!」 |
営業マン | : | 「分かりました。」 |
上司 | : | 「「お客様が、勉強になったと満足していただけるために、お客様の事情を把握して、よりよいご提案をさせていただきたいので…。」とでも言っとけ!」 |
営業マン | : | 「分かりました。」 |
上司 | : | 「ほんなら、最低でも、他の人間をいつ連れてくるかっていうアポイントぐらいは切ってこい!」 |
営業マン | : | 「分かりました。では、行ってきます!」 |
上司 | : | 「おう!また戻って来いよ!」 |
そして、笑顔でスタッフルームから営業マンが出てくる…。
何事もなかったかのように、客の目の前に座り、今の住宅事情、金利の話を繰り広げる…。
爽やかな笑顔で、世間話をしながら、重要な情報を聞き出すタイミングを狼のように狙いながら…。
これは、あくまでも架空の話であり、本当にこんな状況なのかは、想像にお任せします。
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