スタッフルーム実況中継
とある新築分譲マンションのモデルルームでの話である…。
モデルルームの奥に位置するスタッフルーム。ウソと説教と本音が飛び交う空間…もちろん一般人は立ち入り「絶対」禁止。
「少々お待ち下さい。」
接客中、爽やかな笑顔の営業マンがお客様にそう一言告げ、ニコニコしながらスタッフルームへ入っていく…。
これは、あくまでも架空の業者の話であり、優良な業者も数多く存在する。「こんな業者がいたらイヤだな…」という妄想として見ていただきたい。
スタッフルーム |
上司 | : | 「おう、どないや?」 |
営業マン | : | 「ええ、もう帰ると言ってます。」 |
上司 | : | 「次は?」 |
営業マン | : | 「いえ、アポイントを切ろうとはしたのですが…」 |
上司 | : | 「切ろうとしても、切れんかったら何もしてへんのと同じや。下らん前置きはいらんのや。んで?」 |
営業マン | : | 「まあ、また時間がある時に来ますのでと…。」 |
上司 | : | 「んで、お前はどう答えたんや?」 |
営業マン | : | 「でしたら、またお待ちしております。と…。」 |
上司 | : | 「アホかお前は!具体的に「〜日の〜時に」って決めささんと、客来るわけないやろが!」 |
営業マン | : | 「すいません。」 |
上司 | : | 「そいつ逃げてるだけやろが。客の下らん社交辞令に付き合いやがって。もっと食い下がらんかい!」 |
営業マン | : | 「すいません。」 |
上司 | : | 「しかも、「お待ちします。」で終わらしてもうたら、こっちからアクションも起こせんやないか!相手主導になってもうてるやないか!」 |
営業マン | : | 「すいません。」 |
上司 | : | 「そうなってもうたら、こっちから電話しても、客は調子に乗って「はあ?そっちはこっちが連絡するのを待ってればええんや。」なんぞ思いおるからな。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「まあ、こっちが何も言わなくても、向こうが自分から「次回もお伺いしたいのですけど…時間がなくて…いつがお休みですか?」なんぞ言ってきたらまだマシやけどな。それでも向こう主導やけどな。そうなったら、時間指定できんでも大体向こうから電話してきおるわ。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「大体、向こうからアクションがあるのは、ほぼ新規の接客当日か次の日までや。それ以降はほとんどないわ。アクションがありそうかどうかは雰囲気で分かるモンやけどな。そいつはまずないわ。」 |
営業マン | : | 「はい…。」 |
上司 | : | 「次の来場が期待できんってことは、そいつに買わせよう、って思ったらかなり苦労せなアカンやろが。上への報告もかなりつくらなアカンしな。最初からクズやったってな感じでな。全く、面倒くさい。お前の下らん接客のせいで、俺が苦労するんじゃ!」 |
営業マン | : | 「すいません。」 |
上司 | : | 「まあ、さっきも言ったように、次の日まではまだ可能性がないわけやないんやから、お前にも1日だけ猶予やるわ。明日何の連絡もなかったら、お前の営業地獄見さすからな。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「大体、お前アポイントを切ろうとしたって言ってたけど、そいつに何て切り出したんや?」 |
営業マン | : | 「えっ?普通に「次回いつお越しいただけますか?」と…。」 |
上司 | : | 「ネタは?」 |
営業マン | : | 「いえ、特には…」 |
上司 | : | 「アホかお前は?じゃあ次、客何しに来るんや?」 |
営業マン | : | 「すいません。」 |
上司 | : | 「ネタぐらいしっかり自分で考えとかんかい。「次来るまでにライバル物件の詳細確認しとく」やら、「客の年収で銀行が融資OK出すか聞いておく」やら「ガキの通う学校について調べとく」やら。客との接客での会話の中から、客の興味示しそうなポイントを把握して、次回につながるように誘導せなアカンやろが。クズが。」 |
営業マン | : | 「すいません。」 |
上司 | : | 「んで、次回いつ来れる?て聞いて、その次は?」 |
営業マン | : | 「いえ、「う〜ん…」と悩んでたので、「では、今お越しいただいてるのが土曜日の〜時なので、同じように来週のこの時間ではいかがでしょう?」と…」 |
上司 | : | 「アホかお前は?お前が決めてどないするんや?いきなり結論を出して客が納得するわけないやろが。じわじわいかんかい。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「いきなり時間を指定されてしまうと、「その時間に来なアカンのか?」って客が思ってしまうやろが。人間、常に微妙に時間あって、微妙に時間ないもんや。いついける?なんて聞かれて、すぐ答えなんぞ出せんのや。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「その時間はちょっと…。って言われると、自分の意見に対して、客が拒否したっちゅうことや。客が拒否するっちゅうことは、1歩引くっちゅうことや。客の気持ちもそりゃ下がるわ。そうなってしまったら、次に吐きおるセリフは誰でも、「まあ、また…」になるやろが。よっぽど前向きなヤツ以外はな。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「完璧なアポイントの切り方なんぞないけどな、アポイント切るときはこっちでいきなり時間指定なんぞしたらアカンのや。客に決めさせるんや。じわじわな。こっちはあくまでも提案、決めるのは相手や。相手が自分で決めてこそ、「その時間に来なアカン」って相手が勝手に意識してくれるんや。そりゃそうや、相手が自分で時間決めたんやからな。こっちはそれに合わせて時間の都合つけるんや。それを無視したら、どんだけ迷惑なヤツやってなモンや。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「お前もそう思わんか?例えば人に「〜日に来い」って言われるのと、「〜日に〜しようや」って自分が人を誘うのと、どっちが「その日に行かなアカン」って気持ちが強いかな。」 |
営業マン | : | 「そうですね。」 |
上司 | : | 「まあ、それでも来んのが「マンションを見に来る客」ちゅう人種やけどな。中には、何回もモデルルームに来て、話詰めて、いざ「明日申込」っていう状態になって行方不明になるヤツもけっこうおるからな。全く、時間だけ浪費させやがって、上からも怒られるし、ほんま迷惑な話や。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「んで、アポイントはな、例えば「いついけるか?」がアカンのなら、逆に「いつは都合が悪いか?」って聞いてみるのもアリや。時間の選択肢を狭めていくんや。じわじわとな。当たり前やけど、平日は普通は主人は仕事や。当然、無理や。でもな、まずそれを相手に言わせて、「平日」という選択肢をまず相手に消させるんや。認識させるんや。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「ほんなら、客によっては、「まあ、平日も仕事は〜時までやから、その後ならいけるけどな。」なんて言ってくるときもあるわ。ほんなら、そいつの帰宅時間も把握できるし、「平日の夜はOK」と自分で暴露してるやろが。でも、こっちが最初に「お客様は平日はお仕事でしょうが、お仕事が終わられてから、夜にお越しいただけますか?」って聞いてもうたら、「いや、しんどいし…」やら、「いや、いけるかな…」やら、否定的な反応するモンや。相手にOKと言わせるのが大事なんや。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「そうなったら、「いえ、お仕事終わられてからは疲れてらっしゃるのでは?それに、平日も残業などは全くないのですか?」って聞いていくのもアリや。もちろん、相手の体力を気遣う心配りを見せながらな。ほんなら、「まあ、〜曜は残業あるときもあるな」やら、夫婦で来てるんやったら相談し出したりするわ。その場でな。何も言わんかったら、夫婦で家帰ってから相談するやろ?その相談の経緯がこっちは分からん。んで勝手に結論出されて、はいサイナラや。そうさせたらアカンのや。今提案できることは何でも今提案して、相談できることは何でも今相談させなアカンのや。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「客が〜曜は残業があるってんなら、その日も選択肢が消えるやろが。そうやってどんどん選択肢を消していくんや。んで、選択肢がこれ以上狭まらんってなったら、今度はこっちが「その日は私は〜時と〜時に予定がございます。もちろん、お客様のご都合に合わせられるよう、調整はいたしますよ。」とでも投げかけてみろや。相手にさらに選択肢を狭めさすと同時に、自分は人気者なんや、ていうさりげないアピールにもなるんや。ほんなら、別に分刻みのスケジュールこなしてるヤツでもない限りは、「じゃあ、その間の時間にしようか。〜時でどうでしょう?」と客が決めるんや。できるだけ、最後まで客に決めさすんや。こっちはあくまで提案、誘導や。」 |
営業マン | : | 「分かりました。で、もし平日が完全にアウトの場合はどうすればいいんでしょうか?」 |
上司 | : | 「それぐらい自分で考えろや。脳みそ溶けてんのかお前は?週末やったら土日のどっちかやろが。すでに選択肢がなくなってきてるから「どっちがええんや」て聞いたらええやろが。んで、時間を決めるのは、まず午前がいいか?午後がいいか?でまた選択肢を持たすんや。昼飯食ってからか、食う前か、ここ見てから昼飯を夫婦で食いに行くか、そいつの予定について提案していったらええやろが。ほんで相手にその日の予定を決めさすんや。」 |
営業マン | : | 「分かりました。」 |
上司 | : | 「まあ、これはあくまでも一例や。1人の客でうまい事いかんかったら、他に方法を探っていかなアカンのや。客1人1人、常に違う接客話法を繰り出していくんや。それが「考えて接客する」っちゅうことや。漠然と万人向けの接客することなんぞは猿にでもできるんや。物件の説明を繰り返すだけなら、それこそテープに録音して流しとけばええんや。」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「とにかく、その客にももう一度交渉してこい!ダメもとでな!どうせ今帰ったら次会うこともないんや、徹底的にたたきのめしてやれや!世間話でもして、今までのアポイントの失敗をうやむやにして、切り出すタイミングを狙え!」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
上司 | : | 「それで無理やったらパンフレットも渡すな。そんなクズにはもったいないわ。「パンフレットは今在庫を切らしてまして…次回お越しいただくまでにはご用意いたします。」とでも言っておけや。在庫なんぞ切らすわけないけどな。どんな在庫のチェック不足やねん。でも案外客は納得しおるからな。「〜日にパンフレットは手配できるんですか?」なんぞ聞いてきたら、さらにもう1回アポイント切り試みてみろや。ほんなら行ってこいや。」 |
営業マン | : | 「はい。行ってきます。」 |
上司 | : | 「最後まであきらめんなよ!あきらめた瞬間、お前には地獄が待ってると思っておけ!肝に銘じておけ!」 |
営業マン | : | 「はい。」 |
そして、笑顔でスタッフルームから営業マンが出てくる…。
そして何事もなかったかのように、ニコニコしながら世間話を繰り広げる…。
客はすでにモデルルーム出口に立っているにも関わらず…
「お待ちしております。」の一言を忘れてくれることを祈りつつ、「都合の悪い日」を聞き出すタイミングを狼のように狙いながら…。
これは、あくまでも架空の話であり、本当にこんな状況なのかは、想像にお任せします。
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